「デザイン住宅開発マニュアル」を導入した後のことを教えてください。
マニュアル導入後、6時間の研修が4回あり、商品開発の方法、デザイン・設計の方法、営業の手法、仕入価格の交渉方法などを学びました。 研修の内容には、「こんなやり方があったのか!」と感動すると同時に、正直、「本当に自分にできるだろうか?」と不安にもなりました。たとえば設計のやり方にしても、それまでうちは、設計士さんが描いた図面を基に、決まり事の中で家を建てていたのですが、フォーセンスは、矩計をこちらからミリ単位で指定するやり方でした。部材の仕入にしても、うちは現場ごとに1品ずつ価格を交渉していましたし、メーカー→卸業者→販売店というルートも崩せないものと思っていたのですが、フォーセンスの手法は価格交渉の仕方も、交渉ルートも、まったく違っていました。販売価格にしても、うちは一軒一軒、工事代や部材費に利益を上乗せして決めていたのですが、フォーセンスの手法は、発想が根本的に違いました。とにかく不安はいろいろありましたが、もううちの危機を脱するにはフォーセンスで行くしかないと信じて、最初の研修の翌日から、「デザイン住宅開発マニュアル」に基づく商品開発を始めました。
設計や仕入のやり方を変えることについて、社長はどのような意見でしたか。
社長とは、意見が対立することが多かったです。私が研修で感じた不安を、社長も同じように感じていました。今までの設計手法とは違う家を、果たしてお客さんが受け入れてくれるのか? という不安もあったようです。 私は、なんとしてもフォーセンスの家を建てたい。しかし、社長の不安もわかる。そこで、フォーセンスで建てる最初の家は、私自身が住む家にすることに決めました。ちょうど、家内との結婚を半年後に控え、私達の新居の図面も既に完成し、間もなく着工というところまできていた時でした。 「デザイン住宅開発マニュアル」に従って、大急ぎで図面を描き直し、当時まだ婚約者だった彼女のところに持って行き、「どうしてもこの家を建てたいんだ」と伝えました。
婚約者の反応はいかがでしたか。
嫌がりましたね……。一緒に間取りやデザインを考えて、二人で納得した図面を、着工直前になって、急に変えようというのですから。彼女にはずいぶん反対されたのですが、彼女のお母さんが、「あなたの夫になる人が、自分の仕事にプライドをもってやろうとしていることなんだから、あなたは協力してあげなさい」って説得してくれて、最後には彼女も納得してくれました。 完成した新居は、半月ほどモデルハウスとしてお客さんに公開しました。当時は私の営業が未熟だったこともあり、最初の見学会は、半月で計約50組の方々にお越しいただいて、成約は1棟だけでした。ただ、その見学会をきっかけにファンになっていただいて、繰り返し見学会に足を運んでいただくうちに、成約に至ったお客さんもいらっしゃいました。 その後は、フォーセンスの家を建てさせていただくたびに見学会を実施させていただき、私もだんだん営業力が付いてきて、昨年度は私1人で、11棟の受注をいただくことができました。
フォーセンスの家を建てるようになって、お客さんの反応は変わりましたか。
変わりました。見学会で「かっこいい」と言ってくださるお客様が増えましたし、ハウスメーカーの家を指して「あそこもイトー工務店さんが建てたのでしょ?」と言われることもあります。商談の時に「他でも見積を取られましたか?」とうかがうと、ハウスメーカーの名前を挙げる方が多くなりました。見学会にお越しになる方のご年齢層も変わりました。以前は、子育て世代のお父さん、お母さんよりも、まずそのご両親の方々が多くお見えになっていました。フォーセンスの家を建てるようになってからは、最初から、子育て世代のお父さん、お母さんが見学会に足を運んでくださるようになりました。やっぱり、かっこいい家に住みたい子育て世代のお父さん、お母さんは多かったんだと、改めて実感しました。でも一番変わったのは、お客さんより、むしろ私自身だったと思います。
といいますと?
以前は、「お客さんが無理な住宅ローンを組まずに済む家づくり」ということを、一番のモットーにしていました。もちろん、そのことに使命も誇りも感じていたのですが、残念ながら、家そのもののデザインや設計や部材に、強い誇りを感じていたわけではありませんでした。今は違います。デザインも設計も部材も、なぜそうなっているのか、細かいところまで、全部お客さんに説明できます。その家で、お客さんにどんな暮らしをしてもらいたいのか、いくらでも詳しくお話しできます。私自身が、心の底から「この家はいい家なんだ」と信じてご説明しているからこそ、お客さんにも、「なるほど!」と納得してご成約いただけているのだと思います。
売上アップやコストダウン以外に、フォーセンスを取り入れてよかったことはありますか。
仕事がはるかに楽しくなりました。部材の仕入価格を、現場ごとに一品一品値切る必要もなくなりましたし、自分が本当にいいと思う家を、お客さんにお勧めして喜んでいただけるようになりました。 フォーセンスの役員会社や会員会社で、うちよりはるかにすごい業績を上げている方々が、気さくに相談に乗ってくださるのも嬉しいです。フォーセンスの会員になって、信頼できる仲間、いつも刺激をくれる仲間ができたのは、本当に心強いです。
今後の抱負があれば教えてください。
1つは、毎月コンスタントに1~2棟、年間20棟ぐらいは、1人で受注できるようになりたいです。 それから、フォーセンスの西山社長が経営するチトセホームの見学で宮崎に行った時、市内を回りながら「あれチトセホームさんが建てた家ですよね?」って聞くと、全部「そうです」っていう答えが返ってきたんです。チトセホームの家は、誰が見ても普通の工務店の家とは「何か」が違っていて、パッと見ただけで、「かっこいい」「美しい」って感じるんですよ。うちもこの地域で、一目見て「あれ、イトー工務店さんが建てた家ですよね?」って言われるぐらい、「高いわけじゃないけど、他の会社よりかっこいい家を建てる工務店」として、根付いていきたいなと思っています。
(写真右:フォーセンス経営支援室 室長 辰田敏明)愛知県西尾市のイトー工務店では、平成20年(2008年)にフォーセンスの「デザイン住宅開発マニュアル」を導入しました。専務の伊藤明氏(写真中央)に、フォーセンスのマニュアル導入の経緯と効果をうかがいました。